-六君子湯(りっくんしとう)-


六君子湯(りっくんしとう)の効能

体力中等度以下で、胃腸虚弱、食後に眠くなる、食欲不振、疲労倦怠、貧血、冷え性、下痢、みぞおちにつかえ感のある人に用います。食欲不振、消化不良、胃炎、胃アトニー、神経性胃炎、胃がん、胃下垂などに応用します。胃腸が弱い人の貧血、つわり、胃炎などに用いられます。食欲不振、みぞおちのつかえ感、食後に眠くなる、手足が冷えやすいなどがある場合に有効です。


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六君子湯(りっくんしとう)の解説

胃腸の働きを活性化させる六君子湯(りっくんしとう)

解剖学的にいいますと、漢方は人体を五臓六腑(ごぞうろっぷ)に分けて考えます。五臓のうち心、肝、腎、肺の4つの臓は西洋医学でいう臓器の機能といくつかの共通点がありますが、残る脾(ひ)については考え方がだいぶ違います。

漢方でいう脾は消化吸収の中枢を管理する臓器で、西洋医学でいう胃腸に相当すると考えていいでしょう。脾の状態が健康であるならば、血流に乗って栄養分も活発に体内にいきわたりますから筋肉は豊かになり、四肢への滋養も十分となります。脾が弱ればその逆の状態になります。

この脾の衰弱を治して生気を取り戻し、胃腸の状態をよくして食欲を増進する処方が六君子湯(りっくんしとう)です。

食欲を回復させる人参(にんじん)を主薬に、白朮(びゃくじゅつ)灸甘草(しゃかんぞう)茯苓(ぶくりょう)生姜(しょうきょう)大棗(たいそう)を合わせた四君子湯(しくんしとう)という処方があります。

四君子湯は体力が低下していて胃腸機能が衰え、食欲不振や疲れやすい人に向く処方で、胃もたれ、胃炎、慢性胃腸炎、胃アトニーなどの疾患に用いられます。それに、陳皮(ちんぴ)半夏(はんげ)が配合された二陳湯(にちんとう)を加えた処方が、六君子湯です。

白朮、人参、茯苓、半夏が3g、大棗と陳皮が2g、灸甘草1.5g、生姜2gというのが六君子湯の配合比率です。六君子湯は内臓を温めて働きを活発にし、身体に力をつける作用があります。

脾は食欲だけでなく、食物と一緒に飲食された水分の代謝を促進する働きがあります。脾が弱って食欲がなくなると、胃に水がたまって吐き気を催すことがありますが、こんなときに六君子湯を飲むと胸のつかえが取れ、食欲が回復します。このため、胃腸虚弱で食欲がない、病気になって食欲がない、慢性胃腸炎などの場合によく使用される処方です。

六君子湯の主剤の人参は昔から珍重されてきました。この処方の善し悪しは人参の良否に左右されるといっても過言ではありません。日本で販売されている薬用人参は600gで2万円前後までですが、台湾では値段の幅が大きく、安い物は1万円、良い物では10数万円まであり、漢方の専門薬局では7~8種類ほどが並べて販売されています。

白朮(びゃくじゅつ)はオオバナオケラの根で、脾を補って気を活発にする(補脾益気)消化吸収作用促進の生薬です。朮には蒼朮(そうじゅつ)という生薬もあり、六君子湯は蒼朮でもいいと書いてある書物もありますが、こちらは補益力が弱いので脾の力が衰えた人には用いないほうがいいでしょう。

配合率はわずかですが、生姜(しょうきょう)も六君子湯の品質を左右する生薬です。生姜、乾姜(かんきょう)、乾生姜(かんしょうきょう)は日本と中国の間で定義が異なっていたりする難しい生薬です。

乾燥したものを本来「乾姜」と呼ぶのですが、現在の日本では「生姜」「乾姜」「乾生姜」の区別が正しくなされていないことが多く、よく混乱を起こしています。「乾姜」は乾燥したショウガ、「生姜」は乾燥してないヒネショウガ、「乾生姜」はややこしいのですが日本薬局方に書かれている生姜をさします。乾姜の品質のいいものは芳香があり、辛味を強く感じます。中国産の乾姜は、日本の三河乾姜に比べると辛味が強くて温める効果が高いので良品です。

甘草は用途によって、生甘草と炙甘草(しゃかんぞう)を使い分けますが、一般に甘草を生で用いればのぼせ、ほてり、いらいら、口渇を改善し体内の毒素を排出する作用が強く、蜂蜜で炒めて炙甘草にすると、補気作用つまり元気をつけて内臓機能を活発に高める作用が強くなります。

六君子湯では蜂蜜で炒めた灸甘草を使わなくてはなりません。生甘草を使った六君子湯ではほとんど効果が望めません。

このように六君子湯が正しい品質、よい品質の生薬が使われた製剤ならば、1服飲んだだけで胃のつかえが取れ、胃腸の働きを活性化させます。

六君子湯と人参湯(にんじんとう)の比較

六君子湯は人参湯と適応症が非常によく似ています。六君子湯と人参湯はどう使い分けたらいいのでしょうか。配合されている生薬から考えてみましょう。

人参湯の乾姜は体の深い部分を強力に温める作用があり、白朮は胃腸の余分な水分を血液中へ引き込み、小便として出す働きがあります。そのため、主な作用は下痢のほか、手足の冷えを取り除くことにあります。

そして六君子湯に使われている茯苓は、血管外の組織の余分な水分を血液中へ引き込み小便として出す作用があるため、むくみを取り除く効果があります。

ですから、冷え症状がひどい人なら人参湯、冷えがなくむくみが目立つようなら六君子湯、という目安で使用してください。

適応される主な症状

  • 貧血
  • 胃炎
  • 食欲不振
  • 胃下垂

配合生薬

配合生薬の効能

人参(にんじん)

漢方治療において最も繁用される有名生薬の一つで、古くから高貴な万能薬としてよく知られています。漢方では強壮や胃腸衰弱、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振などの改善を目標に幅広く処方されます。

この生薬の特異成分であるダマラン系サポニン(主としてギンセノシドRb、Rg群)は動物実験で、強制運動に対する疲労防止、および疲労回復、抗ストレス作用、ストレス潰瘍防止、免疫活性およびアンチエイジングなどを示し、各種機能の低下を抑制する作用が認められています。

その他、抗炎症、抗悪性腫瘍、肝機能改善作用、血糖降下作用、血中コレステロールおよび中性脂肪の低下作用なども確認されています。また、記憶障害改善(抗痴呆)効果が示唆されています。

蒼朮(そうじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。

秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。

最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。

茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。

半夏(はんげ)

半夏には水分の停滞や代謝障害の改善作用や、鎮吐効果(吐き気止め)があります。特に胸腹部に突き上げるような膨満感があり、お腹がゴロゴロなる場合やのどの痛みがある場合に用います。

しかし、えぐみが強く、飲みにくくてかえって吐き気を催すこともあるので、単独で利用されることはまれで、漢方では吐き気をともなう胃腸障害や、つわりの適用処方などに広く配合される重要生薬の一つです。

鎮吐作用は、有効成分のアラビナンを主体とする多糖体成分によると考えられています。

陳皮(ちんぴ)

陳皮はミカンの皮を、天日乾燥させた物です。リモネン、テルピネオールといった芳香性のある精油成分を豊富に含んでいるため、胃液分泌促進作用、胃運動亢進作用や抗炎症、抗アレルギー作用があります。漢方では、芳香性健胃薬や駆風(腸管にたまったガスを排出)、食欲増進、吐き気止めなどを目標に処方されます。

また、精油成分には一般に発汗作用があり、初期の風邪などに効果があります。入浴剤として利用すると血行をよくし、肌を滑らかにします。

大棗(たいそう)

大棗は滋養強壮、健胃消化、鎮痛鎮痙、精神神経用薬として、多くの漢方処方に配合されています。

含有サポニンのジジフスサポニンによる抗ストレス作用があり、アルカロイド成分リシカミンのおよびノルヌシフェリンなどによる睡眠延長作用、多糖体ジジフスアラビナンによる免疫活性などが報告されています。

その他、サイクリックAMP(環状アデノシン一リン酸)があります、サイクリックAMPは脂肪組織を構成する中性脂肪の分解を促します。また、含有成分フルクトピラノサイドには抗アレルギー作用が認められています。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。


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漢方薬の使用上の注意

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